網膜剥離体験記⑪

ブ~~~~ン

目が覚めた時に耳に入って来たのは、蚊の羽音。

そして、体感したのは猛烈な痒さ。

「や、やられた・・・。しかも3か所」

うつぶせ寝をしていて、掛布団からはみ出している腕と手と指。

何が痒いって、指が一番痒い!

爪のすぐ際の所!

よりによって、こんな微妙な場所から血を吸うなんて、なんて憎らしい。

蚊取り線香的な物と痒み止めを借りるべく、ナースステーションに向かう。

しかし、残念ながら蚊取り線香も痒み止めもないとの事。

いや、正確にはリキッドタイプの蚊取り線香があるにはあったのですが、中身が空でした。

どうやら、入院患者さんで蚊に刺される人は稀なようです。

仕方なく看護師さんから保冷剤を借りて部屋に戻る。

私が入院している病室は、カーテンで区切ることができて気分は半分個室だけれども、実は4人部屋。

同室には、白内障のご高齢のご婦人が2人入院中。

「他の人は刺されていないのかしら?」

そんなことを思いながらベッドに入ると、

ブ~~~~ン

私の周りを蚊が飛び始める。

「フッフッフ、3か所も吸っておきながら、まだ私から血を吸おうだなんて」

蚊を撃退すべく、起き上がって両手で蚊を狙いますが、いかんせん下を向いた状態で戦わなければならないため、こちらの圧倒的不利。

かすりもしません。

「ターゲットは他にも2人いるというのに、私に狙いを定めるとは・・・」

そうなんです。私はよく蚊に刺されます。

夫と2人で並んで寝ていても、私だけが何カ所も刺されて夫は無傷、という事がよくあります。

おそらく、足裏の細菌の数が他の人よりも多いのでしょう。

家であれば、刺されたところにお灸をして痒みとはおさらばできるのですが、お借りした保冷剤、むしろ痒みを増強している感じです。

ただでさえ額の痛みで我慢の閾値は下がっているのに、我慢の限界はすぐそこです。

ブ~~~~ン

ブ~~~~ン

シーン



いか~~~ん、刺される~~~~!!

・・・ブチッ(脳の中で聞こえた音)

はい、限界を超えました。
この状態で寝るのは無理です。

もう1度ナースステーションに行き、まだ蚊が狙っていることをアピールし、何とかならないかと訴えてみました。

すると、本当だったら入院患者が行ってはいけない地下のコンビニに、看護師さんが付き添って言ってくれるとの事。

喜び勇んでお財布を握りしめ、エレベーターにて地下へ。

しかし

残念ながら、虫刺されに関連するグッズは皆無。

諦めきれない私は、外のお店に買いに出かけてはいけないでしょうか?と食い下がる。

しかし、外に出るには医師の許可が必要との事。

もう寝ているかもしれないし、いちいち許可をもらいに行ってもらうのも申し訳ないし、何といってもそんな手間が面倒くさい。

はい、いいです。諦めました。

だからと言って自分のベッドに戻る事は出来ず、私の行くべきところは一つです。

それは、

トイレ


最近の病院のトイレって、とてもきれいなんですよね。

トイレの中で便座に座って顔を下向きにして一息つく。

し、静かですっ

蚊の羽音がしないって、なんて平和なのでしょう!

暫くそうしていると、

トントン

とトイレの扉をノックする音が。

扉を開けると、高齢のご婦人が目の前に立っていた。









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